ストーリー

芹宮蓉子は幸せだ。 仕事に没頭しても妻を労わることを忘れない夫・昌彦と、少し内気だが優しく穏やかな心の持ち主に育ってくれた一人息子・一志。
そんな家族に囲まれて、ごくごく平凡で、でも何にも替え難い日常を過ごしている。
だが、ただ一つ。 その幸せな生活の中で一つだけ、たった一つだけ、蓉子は不満に思っていることがあった。

「ねえ、あなた…… 今日は、その、久しぶりに……」
「……すまない、蓉子。 明日も早いんだ」

結婚したばかりの頃に買ったダブルベッドの上で昌彦は素気無く蓉子の誘いを断ると、すぐに寝入ってしまう。
近所でも有名な仲良し夫婦が実はセックスレスだなんて、いったい誰が分かるだろうか。
満たされない性欲。 だが結婚するまで処女を守っていたような、今時珍しい貞操観念の持ち主である蓉子に、夫以外の男と寝るなどという選択肢が浮かぶわけもない。
必然、蓉子は自分を自分で慰めることしか出来ずに、日々を過ごしていたのだ。
そんなある日、息子が家に友達を連れて帰宅する。
何度か家に遊びに来たことがあるその息子の友人・巳塚亮人は、とても綺麗な顔立ちをした天使のような少年だった。
……だが蓉子は知らない。 その少年が天使の顔の下に、肉欲を滾らせた獣の顔を隠し持っていることなど。