ストーリー
イストアレ。酪農と農業、そして果実を原材料とした酒造が主産業の長閑な小国。
険しい山々に囲まれた辺境の盆地に存在する、軍事的価値などほとんど無いように見えるその国を、蛮族たるオーク族が率いる亜人国ドルバニスが襲ったのは、彼らを構成しているドワーフ族がイストアレの国土に豊富な鉱物資源が眠ることに気付いたからだった。

反乱を起こした地方貴族との小競り合いならまだしも、国同士の戦乱というものを知らないイストアレの騎士団は百戦錬磨のオーク軍になす術もなく蹂躙され、瞬く間に壊滅してしまう。
戦いと呼べるほどの戦いを繰り広げるまでもなく趨勢は決し、崩御した国王に代わりイストアレを治めていた王妃イレーナは、もはや自国に抵抗の意志は無いこと──降伏の意志をドルバニスの陣に送った。

ほどなくして、白旗を掲げつつ王妃の書簡を届けた斥候は、ドルバニス国王──オーク王ドルムから蜜蝋で封をされた書簡を受け取り、それを自国に持ち帰る。
『条件次第で貴国の降伏を受け入れる』　簡素な文面で記されていた条件は二つ。
一つ目はドルバニスに徹頭徹尾有利な条件でまとめられた、実質貢ぎ物と言っても過言ではない貿易協定の締結。
そして二つ目は、遠く離れた国々にもその美貌を湛えられている聡明な王妃イレーナを、ドルムの12人目の花嫁とすることだった。

とりわけ王族と国民を悩ませたのは二つ目の条件だった。国を良くすることにまい進してきた王妃を、いったい誰が亜人のもとに差し出すことが出来るというのか。
だが、まともな戦力を残していないにも関わらず徹底抗戦を唱える臣下や、突然の災厄に安寧を破られて恐れ戦く民草の姿を見たイレーナは、そっと決意を固めるのである。
「──私がドルム様のもとへ嫁ぐことでこの国に平和が戻るのならば、喜んでそう致しましょう」
かくして野蛮な亜人の王のもとに、美しく貞淑な王妃はその身を差し出すのだった。
どんな過酷な運命が待っているかも知らずに。